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【プレスリリース】絶滅危惧種アカウミガメの「ロストイヤーズ」に迫る

『絶滅危惧種アカウミガメの「ロストイヤーズ」の謎に迫る国際共同研究、北太平洋唯一の産卵地である日本で昨年度に続く仔ガメの追跡調査を開始』

昨年度より、Upwellおよび沖縄美ら海水族館と共同で行っている、アカウミガメの初期生活史における回遊生態を究明するための研究について、プレスリリースを配信しました。→プレスリリースはこちらをご覧ください。

(昨年度のプレスリリースはこちら

共同研究についてはこちらをご覧ください。


 特定非営利活動法人Sea Turtle Ecology Lab(理事長:菅沼弘行、以下 STEL)は、アメリカを拠点とするNPO法人Upwell Turtles(Upwell)および沖縄美ら島財団(沖縄美ら海水族館を管理運営)とともに、昨年度に引き続き、2025年9月、沖縄県伊江島沖にて絶滅の危機にあるアカウミガメの生態調査研究を開始しました。
 ウミガメ研究最大の謎のひとつ「ロストイヤーズ(Lost Years)」の解明に挑むこの試みでは、これまで追跡が極めて困難だった仔ガメ(1年齢)に小型衛星タグを装着し、移動経路や潜水深度といったデータを取得します。これらのタグは、Lotek Wireless社とUpwellが共同で開発したもので、Upwellが主導する世界的な共同プロジェクト「Lost Years Initiative」の一環として作られ、ウミガメの仔ガメの海洋での生活についてより深く知ることを目的としています。
 日本は北太平洋のアカウミガメ唯一の産卵地であり、本調査研究は国際的にも極めて重要な意味を持ちます。ここで得られる科学的な知見は、アカウミガメの謎に満ちた生態を明らかにし、ひいては効果的な保全へと繋がる大きな一歩となります。

小型衛星タグを装着したアカウミガメの放流の様子(Photo by Upwell / Seawildearth)

絶滅が危惧される北太平洋のアカウミガメ

 北太平洋のアカウミガメは、日本で生まれ、太平洋を横断して遠くアメリカ西海岸やメキシコ バハ・カリフォルニアまで到達する個体もいることが知られています。
 しかしながら、北太平洋唯一の産卵地である日本において近年その産卵数は激減しており、絶滅が危惧されています。

追跡困難な仔ガメの回遊生態に迫る

 ウミガメの生活史の中で、仔ガメが孵化した後、数年間どのように海洋を回遊し成長しているのか、ほとんど明らかになっていません。その期間は「ロストイヤーズ(Lost Years)」と呼ばれ、ウミガメ研究における最大の謎のひとつとなっています。生存率が低いと考えられるこの期間の生態を理解することは、絶滅が危惧されるウミガメの保全にとって必要不可欠となります。
 しかしながら、広大な海を移動する小さな仔ガメを追跡することは極めて困難でした。
 本調査研究では、最新の小型衛星タグを活用することで、この長年の謎の解明に挑みます。

小型衛星タグを利用した国際協同研究

 本調査研究では、小型衛星タグを装着した飼育下の1年齢のアカウミガメの仔ガメ12個体を沖縄県伊江島沖で放流し、移動経路および潜水深度や潜水時間のデータを取得しながら、行動追跡を行っていきます。
 本研究は、昨年度実施した3ヶ月齢の行動追跡研究に続くものであり、アカウミガメが成長するとどのように移動や潜水行動が変わるのか、明らかにする予定です。
 また本調査研究は、アメリカを拠点とするUpwellおよび沖縄美ら島財団との共同研究であり、太平洋を横断して回遊するアカウミガメの生態を踏まえ、国境を越えた諸外国との連携を推進する重要な一歩です。この協力関係は、Upwellが推進する大規模な「Lost Years Initiative」の一環でもあり、世界中で拡大を続けるパートナーのネットワークを有しています。

小型衛星タグを装着したアカウミガメの放流準備の様子(Photo by Upwell / Seawildearth)

初期生活史の解明と保全戦略への応用

 本調査で得られるデータを詳細に分析することで、仔ガメの分散・回遊、生息地の選択、海洋環境が行動に与える影響などが把握できるようになります。
 これらは、より効率的な保全戦略の構築のみならず、漁業、海洋プラスチック汚染、船舶の航行、エネルギー開発などの人為的脅威が及ぼす悪影響を理解するための重要な知見となることが期待されています。
 研究結果は論文としてまとめ公表する予定です。

※本調査研究に使われたアカウミガメの個体は、沖縄県海区漁業調整委員会による採捕承認(No. 6-k3)および沖縄県による特別採捕許可(No. 6-35)を得て捕獲しています。
※本調査研究に使われたアカウミガメは、沖縄美ら海水族館で孵化後1年間飼育されました。

共同研究団体

NPO法人 Upwell Turtles
Executive Director:Dr. George Shillinger
URL:https://www.upwell.org/

一般財団法人 沖縄美ら島財団
理事長:湧川盛順
URL:https://churashima.okinawa/

NPO法人 Sea Turtle Ecology Lab
理事長:菅沼弘行
URL:https://www.stel.or.jp/


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